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ESSAY & INTERVIEW

卒業生インタビュー:六代深尋さん(2020年度卒/日本模擬国連理事・カフェ「橙子猫」共同店長)

投稿日 2023/12/4

Text:Yuya Fukumuro(5E) Photo:warashibe

模擬国連。色々な学校で取り入れられているのでご存じの方も多いかもしれません。今回ご紹介するのはそんな活動に携わる卒業生です。インタビューは早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)の素敵なカフェでおこなわれました。実は六代さん、ここの経営にも関わっているんです。

六代 深尋(ろくだい みひろ)
初等部から早実に入学。早稲田大学政治経済学部3年。学生団体である日本模擬国連の事業担当として活動しながら、早稲田大学国際文学館のカフェ「橙子猫」の共同店長を務める。

――まずはこの橙子猫(オレンジキャット)について伺いたいです。どのような経緯で、どんなお仕事をされているのでしょうか。

早稲田大学に入学後、最初にフランス語の授業で仲良くなった友人がこのカフェの経営者になることに決まっていたんです。私も読書が好きだったのでダメ元で応募して面接に行ったところ、受かったから働き始めました。そこから現在まで勤め続けて、今は経理部長になっています。経営者の留学期間中の責任者3人のうちの1人で、人事、商品開発と経理をそれぞれが担当しています。経理は地味なんですけど、正確さが求められる大事な仕事だと思っていて、私はお金勘定とかが割と好きなので楽しくやってます。

――このカフェの魅力を教えてください。お客さんはやはり大学生が多いのですか?

村上春樹さんのご意向で国際文学館(早稲田キャンパス4号館)に置かれた、完全に学生のみで運営されているカフェです。ところどころに春樹さんが使われた私物があるのがまずひとつの魅力です。例えば春樹さんがつけた傷があるとされるこの机はお客様用として使っているし、店内には春樹さんの書斎を再現したスペースもあります。春樹さんお好みブレンドのハンドドリップコーヒーが1番の主力メニューです。作品をモチーフにしたサンドイッチもあって、例えばローストポークと胡瓜のサンドイッチ(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』)とか。新作も定期的に出していて、毎月大学のサークルとコラボしたり、春樹さんの新作が出ればそれをイメージしたケーキとドリンクを提供したりしています。

立地が特殊なので、学生のみならず観光客とか色々なお客さんが来られます。だからコミュニケーションをどうやって取るのかというのが普通のカフェのバイトより大切だなあと常々思っています。

――では話題を変えて、六代さんの早実での生活をお聞きしようと思います。どんな時間を国分寺で過ごされたんですか?

私は初等部から入ったので12年間早実にいたことになります。初等部の7期生でした。初中等部時代は特段の取り組みもしていない普通の生徒でした。部活や習い事も色々やったけどどれも微妙で。途中で自分は勉強することがわりと好きなんだと気づいたくらいでした。

転機は高校になって、留学したことです。人生が変わったといっても大げさではないくらい。海外に行く特別な理由があるわけではなかったんです。けれど、中学3年の夏に食中毒をこじらせて入院したとき、「人間いつ死ぬか分からないからやりたいことを今のうちに」と思ったから、漠然と抱いていた海外に行きたいという思いを叶えました。いざ行ってみたら、「私こんなことできるんだ」と気づかされることがたくさんありましたね。

留学先はアメリカのジョージア州で、期間は1年間でした。最初はジョージア州ってどこ?と思ったし、行ってみたら周りに日本人は一人もいなくて大変でした。アメリカは人種のるつぼだから、留学生だからといって特別扱いをしてもらえるわけでもなく、最初はただ英語が話せない一人の転入生としてその場にいるだけという感じです。でもそれじゃもったいない、何もしないわけにはいかないと考えた末、スピーチ部に入ったんです。スピーチを考えて、覚え、発音の指導、文法訂正などを周りと一緒にして、発表するという流れで英語が話せるようになり、友達もできました。日本の歴史教育についてのスピーチなんかもやりました。友人は特にルーツがメキシコ、キューバ、コロンビアなどの人が多くて、ジョージア州が南米に近い位置ということもあり、その地域に興味を持つようになりました。

――大学生活についてお伺いします。サークルは模擬国連というものに入られているんですよね。

模擬国連はそもそも存在が知られてないんじゃないかってくらいだと思うんですけど、ディベートと似て非なるものかなと思います。一人一人に別々の国の大使の役が割り当てられて、その立場からひとつのテーマについて議論するという形式です。最後に全員の意見を集約する際に、どのように自国の利益を盛り込むかが面白いところですね。

議題は現代に限らず、例えば実際に1995年に行われた「気候変動枠組条約第1回締約国会議」を模した会議であったりと、年代まで指定して行います。まだCO₂の温室効果と地球への影響が明確に分かっていなくて、でも漠然と温暖化は止めないといけないという意識を各国が持ったうえでの話し合い、って背景があるんです。この場合、ドイツを割り当てられた人は環境先進国だからどんどん対策を推進しようと主張して、フィジー、ツバル等海抜の低い島国の人も沈んでしまうからどんどん進めていきたいと言う。でも中国担当は別に気候変動のデメリットを直接受けるわけではないし、むしろ今は経済発展中だから対策によって成長を制限されたくないと後ろ向き。こんなふうに利益が国によって違うから、それに合わせて会議をロールプレイするというのが模擬国連の活動内容となっています。

難しいだろうなって思う人も多いと思います。私の場合は入った動機が不純で、漠然と知識をつけられそうなサークルを探した結果行き着いた感じだったんですけど、サークルに入りたての頃は会議で周りが何を言っているのか分からないこともしばしばで。でも活動していくうちに理解できることが増えてきて、面白さも分かるようになりました。ポイントは、国単位の話し合いでも結局は人対人の会話というところかな。南極の領土分割についての会議のときは「うちの国は昔ここにたどり着いた記録があるからここが欲しい」とか、ほんとに子供のおもちゃの取り合いみたいで。会話の根源は思ったより単純なんです。大学での学業の方はまあ順調で、今は将来について考える時期に入っています。

――今後の展望を教えてください

サークルでの経験を生かして、外務省で働いていきたいと考えています。中南米の大使館で駐在するような姿を思い描いています。中南米は日本人にとって縁の遠い国々ですよね。位置的にも地球の真反対だし文化も全然違うし。模擬国連の活動で中南米の国担当のときは、下調べの過程で全く知らないことばかりだと気づいて驚くことが多かったです。でもだからこそ、違うからこそ、強い興味を抱くようになりました。就活も報道関係に業種を絞っておこなっています。どうなるかはわかりませんが、たとえば新聞社に入っても海外を担当したいと考えているので、いずれにしろ目線は海外に向いているといったところです。

――最後に、今の早実生に向けて一言お願いします。早実生におすすめの村上春樹さんの1冊も教えていただきたいです。

春樹さんの1冊ですか。私は春樹さんは好きだけどマニアというほどじゃなくて、カフェでお客さんに説明ができるくらいで。すべて分かるというわけではないんですけど、おすすめするとしたら春樹さんのエッセイ集ですかね。『村上朝日堂』のシリーズなどです。春樹さんというと長編小説のイメージがあるし、面白いけれどよく分からないという認識を持っている人が多いと思います。でもエッセイでは春樹さんの人間らしい一面が見られるというか。普段雲の上のように感じていても実際は私たちと同じように考え、生活しているというのを感じられる点で本当に面白いと思います。

今の早実生には、「自分が何に興味があるのか、に興味を持ってほしい」と伝えたいです。大学は自分が興味のあることを学べる場所。講義もサークルも全部そうで、本当に興味を持って取り組めることを見つけないと、無為な日々を過ごしてしまってもったいないですよね。将来に向けて興味のあることを、中高生のうちから探してもらいたいと願っています。

カフェ「橙子猫」
https://orangecat-wihl.com/

模擬国連早稲田研究会
https://waseken.com/