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ESSAY & INTERVIEW

卒業生インタビュー:赤木謙介さん(1999年度卒/株式会社タカラトミー)

投稿日 2025/12/16

Edit:warashibe

早実卒業生から仕事や人生を学ぶインタビュー企画。
今回は株式会社タカラトミーの赤木謙介さんに、出張授業という形で学校へお越しいただきお話を伺いました。

赤木 謙介(あかぎ けんすけ)
早稲田大学卒業後、タカラトミーに入社。主に玩具のマーケティングや 商品企画、及び事業運営を担当。「Transformers」「ビーダマン」「チョロQ」等の自社ブランドやグローバルキャラクターの玩具事業を担当。ついには宇宙玩具まで手掛ける。趣味はカードやシールのコレクター、漫画、ゲームとインドア派。

――現在のお仕事について教えてください。

おもちゃ会社のタカラトミーに入社して20年以上経ちます。キャリアの大半はマーケティングと企画開発の部署に勤めていましたが、今は主にメディア戦略を担当しています。

その中でも今とても注目されていると言えるのが「SORA-Q(ソラキュ―)」の仕事です。SORA-Qというのは、タカラトミーが宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、ソニーグループ、同志社大学と共同開発した超小型の月面探査ロボットのこと。大きさは野球ボールくらいしかありませんが、小さな体の中におもちゃの技術が詰め込まれています。今回のプロジェクトの成功で、月面に着陸、撮影をした日本最初のロボット、また月面で活動した世界最小、最軽量の探査ロボットになりました。

いま国際的な月探査プロジェクトである「アルテミス計画」が進められており、宇宙開発が盛り上がってきています。もしかしたら将来は月で仕事をする人が出てくる可能性もある。SORA-Qもそうした流れの中で高い評価をいただき、日本オープンイノベーション大賞の内閣総理大臣賞を受賞することができました。

――SORA-Qについて、もう少し詳しく知りたいです。

SORA-Qは2023年9月7日にJAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」に搭載され、月に向けて打ち上げられました。SLIMは高さ2.4mくらいの無人探査機で、2024年1月に世界初の「ピンポイント着陸」に成功したんです。従来は着陸地点の誤差が数㎞にも及びましたが、SLIMの精度は100×100m(実際の着陸は誤差55m)。月は地球の4分の1サイズとはいえ広大です。その中のごく狭い範囲に着陸できる技術は、月面探査の可能性を広げる快挙でした。

その月面着陸の証拠画像を撮影したのがSORA-Qです。SORA-QはSLIMの着陸直前に射出され、SLIM本体やその周辺を撮影して、SLIMが月に着陸した証拠となる画像を地球に提供してくれました。

SORA-Qには私たちタカラトミーの4つのおもちゃ技術が生かされているんです。その4つの技術というのが、「変形する」「軽い」「壊れにくい」「走る」です。

子どもたちが喜ぶこれらの要素は、SORA-Qに最適な月面での探査活動を提案するのに非常に役立ちました。JAXAからは搬送のコストを抑えるために、送るときは極力軽く小さくしてほしいという要望を頂いていて。というのも宇宙に物を送るためには、1㎏につき100万円以上が必要と言われています。だから地球では小さく、宇宙では操作可能な大きさになるようにするというのは優先順位の高い課題でした。

その一方で、凹凸の多い月面を走行するにはパワーも必要になります。「小さくて強い」という一見矛盾するようなJAXAの要求に、タカラトミーは「変形」という提案をしたんです。SORA-Qは動作に必要なパーツ数が全部で約60ですが、普通の車が3万パーツくらいなのでパーツの少なさに関しては一目瞭然だと思います。パーツが多いとそれだけ故障のリスクも高くなるんですよね。1つでもパーツが壊れると全体が機能しなくなってしまうので。だからシンプルな形状にするっていうのも課題でした。そこでおもちゃの技術を活用して、一つのパーツが複数の機能を持ち合わせられるような形状にしました。こんな風に、SORA-Qにはタカラトミーのたくさんの技術が搭載されているんです。

――SORA-Qの開発にはどんな困難があり、それをどう解決しましたか?

SORA-Qに与えられたミッションの一つである「月面での移動」は簡単にできることではありません。月の表面はレゴリスと呼ばれる非常に細かい砂で覆われています。SORA-Qは野球ボールほどの大きさしかないので、レゴリスのような細かい砂に車輪がはまると、回転数を上げても滑ってしまい身動きが取れなくなってしまいます。

この問題を解決するヒントになったのが、ウミガメの赤ちゃんの移動方法です。少量の力で、細かい砂の上を滑ることなく素早く進むことができる。この動きを参考にしてSORA-Qに搭載した技術が、車輪の軸を少しずらす(偏心軸)というものです。これによりSORA-Qはレゴリスにはまっても、乗り越えて進むことが可能になりました。

製作した試作品の動作を確認するためにJAXAにある月の環境を再現した実験棟で本格的な検証実験を重ねました。坂の角度を上げてみたり、徐々に本番の環境に近づけていき、約8年かけてSORA-Qが完成したのです。

通常、おもちゃの開発にかかる期間は1~2年ほどですが、これはSORA-Q開発に当てはめると、レゴリス問題を解決するのにかけた期間と同じくらいですね。時間も労力も、普通のおもちゃとは比べ物にならないくらいかかりましたが、それだけにSORA-Qが撮った写真が月から送られてきたときはとても感慨深かったです。

SORA-Qを月で走らせるためにはレゴリスの他にも重力など多くの課題がありましたが、その度にタカラトミーが培ってきたおもちゃの技術が解決に役立ってくれました。子どもたちを楽しませるために突き詰めてきた技術が、月面探査ロボットにも応用できた。本当に素晴らしい経験ができたと思っています。

――共同開発の経緯を教えてください。なぜおもちゃ会社のタカラトミーが宇宙開発プロジェクトに参加することになったのでしょうか?

2015年にJAXAが共同研究の公募をしており、そこに我々が応募したのがきっかけです。もしJAXAが出していたプロジェクトの記載が「宇宙開発」のみだったら、タカラトミーが手を挙げることはなかったはずです。でも実際の募集で使われた文言は「昆虫ロボットの研究開発」でした。それならトランスフォーマーやZOIDSなどタカラトミーがおもちゃ作りで磨いてきた技術を生かせそうだと思い、応募することにしたんです。こうしたプロジェクトへの協力を仰ぐときは、必要な技術やイメージが具体的に固まっていると仲間が集まりやすいのだとわかりました。

もちろんタカラトミーだけですべてができたわけではありません。先ほどお話したように、おもちゃのアイデアを応用することでSORA-Qの「体」は完成しましたが、次の問題は「頭」、つまり頭脳部分でした。

SORA-QにはSLIMを撮影して本体に送るというミッションがあります。しかしその中には被写体が見切れていたり、ピンボケ等で使えない写真も当然含まれてきます。すべての写真を送ることはできないので、SORA-Qが自分で良い写真を選定しなければなりません。またSORA-Qが月面で動けるのは約2時間です。短い時間の中ですべての任務を手際よく行う賢さが備わっていなければなりませんでした。

そこで、頭脳部分に関してはソニーグループに声をかけて協力を依頼しました。今回のプロジェクトにかかった8年間は宇宙開発としては短い、とよく言われます。10年20年が当たり前の世界でこれが可能になったのは、宇宙開発のことはJAXA、メカや撮影のことはソニーグループに頼るという協力体制ができたからです。大きなプロジェクトを実現するためには、全部を自分たちでおこなうのではなく、それぞれが得意なことを持ち寄って補い合うことが大切だと思います。

――ここで少し話題を変えます。なぜおもちゃ会社に入ることにしたのでしょうか?

大学のサークル活動がきっかけです。親元を離れて施設等で暮らしている子どもと一緒に遊ぶボランティアサークルに所属していました。自分たちで遊びを考えて、それを提案しに行くんですが、こちらが考えた遊びがつまらないと子どもたちはみんな自分の部屋に帰ってしまうんです。

スリルがあって良い経験だったのですが、そこから人を笑顔にさせられて、かつお金を稼ぐことができたらいいなと思うようになりました。いくつか候補がある中でタカラトミーを選んだのは、テーマパークのように地域を限定せず、世界中の人を喜ばせることができると考えたからです。

――おもちゃ会社の魅力や面白さについて教えてください。どんな場面でやりがいを感じますか? 

カッコよく言うなら笑顔の創出、思い出作りの一助になれる、ということです。おもちゃで遊んでくれた人たちの、素敵な思い出を作ることが出来るんです。おもちゃの楽しさというのは万国共通です。そんな大げさな、と思うかもしれませんが、これは間違いありません。海外で、言語も育った環境も違う子どもたちがベイブレードで楽しそうに遊ぶ姿を見てきました。遊びの楽しさは国境を越えるということを、私はこの仕事を通じて確かに学びました。

――仕事上の不安や悩み、失敗をどう乗り越えてきましたか? 

失敗を失敗でなくすことです。おもちゃ作りというのは一度で成功するものではありません。だけど、それを次に生かすことが出来れば、それは失敗ではなくなります。通常のおもちゃ開発でも2〜3回の試作は当たり前。SORA-Qでは20回以上試作を繰り返しました。おもちゃも人も、失敗してきた方が成長できます。自分の仕事に誇りと自信を持って、どんどん失敗を積み重ねていくことで、不安を乗り越える事ができるのです。

その誇りと自信を作る方法、心の支えとなるのが、担当している商品への愛情です。今回の様な講演ではおもちゃを会場に展示したりしますが、決して適当に置いたりはしません。どうすればトランスフォーマーが一番カッコよく見えるかを考えます。そのためには商品をよく知っていること、そして商品を愛していることが大事です。仕事が好きになれば、その結果として生まれた商品を好きになります。そして、そんな商品を生み出せた自分を好きになれるのではないでしょうか。

――早実生に向けて、進路についてのアドバイスをお願いします。

まず伝えたいのは、進路を考えるのは大学1年生でも遅いくらいだということです。自分が大学生の時に決まっていたのは、おもちゃ業界に行きたい、ということだけでした。人を喜ばせる仕事がしたくて、おもちゃやゲーム、遊園地と言ったエンタメ業界を受けたんですが、業界について全然調べてこなかったものですから、ディズニーランドを運営しているオリエンタルランドすら知らなかったんですよ。ですから興味がある業界については、早いうちから調べておくことをお勧めします。

それから、自分がどう生きていきたいかを考えること。お金とか地位とか名誉とかではなくて、心の底からやりたいことは何か。たとえどんな仕事についたとしても、そこさえ明確になっていれば、仕事に対するモチベーションを保てるはずです。

――最後に、今後の展望や計画はありますか?

SORA-Qの開発のなかで子どもにアンケートをとってみたんですよ。そうしたら、今の子どもはロケットとか宇宙飛行士にそれほど興味がないっていうことがわかりました。つまり子どもたちは宇宙にワクワクしていない。だから、宇宙に興味を持ってもらうことが事業化の第一歩だと考えました。

それで、「車」「人形」といった子どもたちの遊びの選択肢に「宇宙」を加えて、子どもにとって宇宙をもっと身近なものにしたいと思ったんです。SORA-Qも試作を重ねていくなかで、子どもたちが親しみやすい名前を付けることにしました。140個ほどのアイデアの中から選ばれたのが今の愛称(※名称は「LEV-2」)であるSORA-Qです。宇宙を意味する「宙」、そして宇宙に対する問い(question)と探求(quest)。また球体であることと横の姿が「Q」に似ていることからSORA-Qと名づけられました。

市販されているSORA-Q、正確にはSORA-Qと全く同じ大きさ、同じ動きができる1/1スケールモデルで「SORA-Q Flagship Model(ソラキュー フラッグシップモデル」といいますが、これはスマホで簡単に操作して遊ぶことができるんです。月を走っていたロボットと同じものが家に来るって、すごいことだと思いませんか。他にも宇宙に興味を持ってもらうっていうことで言うと、この出張授業のように講演の活動もしていますし、皆さんおなじみのリカちゃんやトランスフォーマーも宇宙に関連づけた商品を展開しました。

SORA-Qが送ってくれた月面の画像を見た時、プロジェクトチームは感動の嵐でした。いつかは月から地球を映すことができるようになるかもしれない。そういうプロジェクトに感動してくれる子どもたちがたくさん出てきてくれるように、今後も働きかけていこうと考えています。

SORA-Q 公式サイト(タカラトミー内)
https://www.takaratomy.co.jp/products/sora-q/

SORA-Q Xアカウント 
https://x.com/SORAQ_official

タカラトミー公式サイト
https://www.takaratomy.co.jp/