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ESSAY & INTERVIEW

卒業生インタビュー:竹内堅太郎さん(2020年度卒/早稲田大学基幹理工学部表現工学科)

投稿日 2025/4/16

Text:Ayumu Shimada・Ryuta Hasegawa   Edit:warashibe

「理工学部」で「専門は映画」という一見不思議なプロフィール。いったい表現工学科とはどういうところなのか? 詳しく語っていただきました。楽をしないで自分が成長できる環境を選択すること。興味の幅を広げること。大事な話がつまったインタビューです。

竹内 堅太郎(たけうち けんたろう)
中等部から早実に入学。早稲田大学基幹理工学部表現工学科4年。早実在学中は合唱部で活動し、大学では日本最大のミュージカルサークル「Seiren Musical Project」の代表を務める。2025年3月卒業。

――大学ではどんなことを学んでいるのでしょうか?

早稲田大学基幹理工学部の表現工学科で、土田・是枝研究室に所属して2年目になります。表現工学科というのは芸術と先端技術をどうやって融合させようかっていうことを課題にするところで……、チームラボの展示を見たことはありますか?

――あります! なんか光と音楽みたいな。

そう、絵の具じゃなくて先端技術を使ってアートを作る。あれがすごく分かりやすい例です。本来文系と考えられてきた芸術分野にテクノロジーで迫るという捉え方をしてみてもいいかもしれません。

学科についてもう少し説明すると、授業は大きく二系統に分かれています。芸術系と技術系があって、自分は芸術系の講義を中心に学んできました。他の分野に進んだ友達が研究室にこもっているのを横目に映画を観るので、申し訳ない気持ちになることもあります(笑)。

実は理系科目が得意だったわけではありません。ただ極端に嫌いということでなければ理系に進んでも生き残れるとずっと考えていました。表現工学科に入ってからは数学もやらずにアートばかり。土を触ったり、自然の素材を用いて作品を作るナチュラルアートの授業とか。

――研究室での活動についても教えてください。

映画を学ぶ研究室で、批評や分析をしています。具体的には週に1回、研究室全体で1本の映画を観て、各々1000字くらいのレポートを書く。

あとは実際の映画作りですね。「映像制作実習」という授業で、いくつかのチームに分かれて一年間かけて作品を作ります。最終的には大学の近くの早稲田松竹という映画館で上映させていただきました。早稲田松竹は、二本立てで名作や特集上映されている作品を観ることができるので、早稲田生にはぜひ足を運んでほしい場所ですね。

卒業論文はマヤ・デレンという実験映画家を研究対象にしています。彼女は実験映画家であり振付師、ブードゥー研究者でもあって、その多面的な要素を持つ彼女の作品にはどんな魅力があるのか、ダンサーとしての活動が表現にどのような影響を与えているのかを研究しています。元の映画を構成し直す実験や、その映像におけるダンサーの運動の軌跡を可視化して分析することも。今論文を書いていますが、すごく楽しいです。

テーマだけ話すと理系というより文学部の卒論みたいですよね。「理系の中の文系」の道を常に選択してきた気がします。それは性格に合っていたと思うし、やはり好きな芸術について学びたかったから、表現工学科に進んだことは間違いではなかったと思っています。

――ちょうどダンサーの話が出ましたので、サークル活動について聞かせてください。大学ではミュージカルを作っているとうかがいました。

ミュージカルサークル「Seiren Musical Project」という団体で代表を務めています。団員300人を抱えるインカレサークル(大学の垣根を越えて活動する団体)で、年間約80回の公演を実施しており、一つの企画で約1000人が来場します。

プロの世界で活躍されている演出家さんや振付家さん、舞台スタッフさんをお呼びして、高いクオリティを生み出すことができる環境で、学生スタッフ・キャスト共に日々の稽古に励んでます。自分もそうですが、毎年数人ずつ早実生も入ってたりしますね。OB的にはもっともっと多くの早実生に「セイレン」のことを知ってもらいたいです。

自分としては「遊び!」「お酒!」「自主休講!」みたいな大学生活は送りたくなかったんですよね。それで日本の大学で最も規模の大きなミュージカルサークルに入りました。あえて厳しい環境に身を置くことにしたわけです(笑)。

キャストのオーディションは学年など関係なく完全実力主義なので、大学1年生がキャストになってしまう、なんてことは日常茶飯事です。でもそのおかげか、皆が緊張感をもって練習に参加するし、競争相手がいるとやっぱりモチベーションは高くなりますよね。

(Appleでの特別パフォーマンスの様子)

――300人となると、話したことのない団員もいそうですけど……。

もちろんいますよ。でも去年から団体改革を始めて、例えばラジオ。これがサークル内では好評で。「セイレン」ってどんな団体なのか、僕だったり各部門のスタッフのトップがどんな人なのかっていうことを団員に伝えています。運営している人のことが分からないと、やっぱり組織への愛着も湧かないだろうと思って。おかげで皆も僕も「セイレン」への愛着が増してきているような気がします。

舞台には役者や音響など様々なポジションがありますが、裏方として働く人も含めて300人全員がパフォーマーという気持ちで、一丸となって取り組んでいます。実際にニューヨークのブロードウェイで上演された作品の版権を買って公演をおこなうこともあります。企画から衣装や小道具を作るところまで全て自分たちで手掛けるので、やっぱり達成感はすごいですよね。このサークルをきっかけにプロになる人もいるくらいです。

――今、高校生にアドバイスを送るとしたらどんな話をしますか?

高校生のうちに学校の勉強や部活以外のことに取り組むのは本当に大事だと思っています。それこそ映画を観るだけでも知見を広げることができるし、何より楽しい!

大学で時間ができてからっていう考え方があるのはわかりますが、それでは遅いと感じることもあるかもしれない。興味があるなら今やった方がいい。高3でコロナ禍になり、誰とも会えなかった時期に映画をたくさん観ました。あと英語を使って家族と会話してた。家族は日本語で喋るんだけど自分は英語で返すみたいな(笑)。

たとえ時間や状況の制約があっても、色々なことに触れる機会を逃さない。それは後の人生に絶対つながるはず。映画の例でいえばミニシアターは知らない世界との出会いの宝庫。映画館の個性が出ていて、そこでしか観られないものに出会える。しかも短期間でどんどん作品が入れ替わるので、その作品を観られるのはその瞬間しかないっていう気持ちになります。 

元々はディズニー作品を作りたかったんですけど、卒業後は広告代理店に内定をいただいています。これまでの様々な経験が自分でも予想していなかった展開を生んだ。最初に「NO!」から入ってしまうと視野が狭くなってしまいます。どんなことだって知れば知るほど面白くなるんだから、少しでも関心の幅を広げておく。色々なことに挑戦しつつ、自分の「芯」になるものを探すことが大事ではないでしょうか。